『 嘘解きレトリック』の話

個人的な今年のイチオシとしたからにはちゃんと感想と紹介文を書いておかないとね。


設定だけを簡単に言えば「嘘を聞き分ける」超能力少女、鹿乃子のお話。
が、もちろんこの能力一本だけでは特別珍しい設定でも何でもないわけで。
『嘘解きレトリック』ではこの超能力少女が、洞察力鋭い貧乏探偵、左右馬の助手というのが話の肝になります。

超能力物というと、どうしても能力の有利な側面ばかりに目が行きがちですが、
この「嘘を聞き分ける」という能力、決して万能なものではなく、実際鹿乃子は左右馬と出会うまで、周りから疎まれ、孤独に暮らしてきました。
能力のせいで不幸になり、能力と上手に向き合うことができないのが、お話冒頭での状態です。

左右馬の洞察力、能力の理解、能力の生かし方が揃って、初めて鹿乃子の力が発揮されます。
左右馬による能力の検証は、賭け事で大儲けできないかとか、小銭稼ぎのイカサマだったりで、
ともすれば深刻になりがちな内容のことを、こんな風にコミカルにできるのが素敵ですよね。

鹿乃子にとって能力はなんてものはトラウマでしかないわけで。
左右馬の能力に対する接し方、向き合い方は、真剣でいて、それでいて深刻になりすぎないようにするという、ね。
これはもうね、惚れちゃっても仕方ないんじゃないですか?どうなんですかそこのところ。
1巻時点でははっきりとした恋愛描写はないですけどもね。


どうでもいいけど、小銭稼ぎのイカサマの内容。↓

  「持ってるのどーっちだっ」(両手を握る子供)
  「質問は1回きり。答えは嘘でもいい。はいかいいえで答えてね」

  これにおける質問が、
  「右手に持っていますか?」だからねえ。
  いやー種も仕掛けもないというか、真っ向勝負過ぎる(笑)。


この記事を書くに当たって作者の都戸利津先生の今までの作品全部読みましたけど、
先に『嘘解きレトリック』読んでからみると、都戸先生の嘘というものに対するスタンスというか考え方まで気になってしまいますね。

鹿乃子が「人を悪者にするようなそんな嘘はついちゃダメ!!」って言ったり。
鹿乃子が自分の口から出るウソまでウソとわかってしまったり。
本当にこの辺りの作りは巧いですね。

伏線の張り方、回収の仕方に関しても、「その伏線回収しちゃうんかい!」って思わずツッコミそうになったのもありましたが(笑)、巧いですよね。
となると気になるのは、きれいだった女中部屋ですね。
基本1〜2話完結みたいですが、これに関しては2巻以降に期待です。

そもそも表紙買いしたので絵に関しても触れておきましょう。
作者コメントに
「眼鏡、おかっぱ、着物、昭和初期、探偵、洋館、猫、食べ物…描きたい物を描けるだけ描いていこうと思っています。」
とあるだけあって、時々物凄く細かい描き込みがありますね(さすがに森薫先生ほどではないですが)。

鹿乃子の表情の描き分けと、
ウソを左右馬に教える合図の仕草なんかもまた非常にかわいらしくていいですね。
別におかっぱ属性なんてなかったんだけどなあ……

というわけで長くなりましたが、
日常超能力物が好きな方、ライトなミステリー物が好きな方、伏線好きな方、おかっぱ好きな方(笑)、一読いかがでしょうか。